大判例

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大津地方裁判所 昭和59年(ワ)184号 判決

原告

植西敏

右訴訟代理人弁護士

出口治男

湖海信成

北条雅英

被告

菅田清孝

被告

菅田真由美

右両名訴訟代理人弁護士

井田英彦

被告

日本国有鉄道

右代表者総裁

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

玉田勇作

右訴訟代理人

小林武

新井靖夫

水口数行

主文

一  被告菅田清孝は、原告に対し、金三、二三三万六、六二三円及びこれに対する昭和五八年三月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告菅田清孝に対するその余の請求、並びに被告菅田真由美及び同日本国有鉄道に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告と被告菅田清孝との間に生じた分はこれを四分し、その三を被告菅田清孝の、その余を原告の負担とし、原告とその余の被告との間に生じた分はすべて原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金四、二〇三万六、六二三円及びこれに対する昭和五八年三月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告菅田清孝及び被告菅田真由美

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告日本国有鉄道

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 原告は、昭和五八年三月二一日、大阪行「雷鳥五四号」(以下「本件列車」という。)の四号車(グリーン車、以下「本件車両」という。)に金沢駅から乗車し、京都駅へ向つた。

(二) 被告菅田清孝及び被告菅田真由美(以下あわせて「被告菅田ら」という。)は、武生駅から本件車両に乗車し、京都駅に向つた。

(三) 被告菅田らの座席は、原告の座席の真後ろであつたところ、被告菅田らは、乗車後間もなく、所携の旅行用鞄(サムソナイト、以下「本件鞄」という。)を原告の頭上の網棚の上に乗せてその場を離れ、後記事故の発生まで座席に戻らなかつた。

(四) 本件車両が湖西線に入つてしばらく経つた時、本件鞄が網棚から落下し、二段式のリクライニングシートを一段目まで倒して仮眠していた原告の頭部を直撃し、原告に頭部外傷I型、外傷性頸部症候群、外傷性椎間板症等の傷害を負わせた。

2  被告菅田らの責任

被告菅田らは、本件車両に乗車するに際し、本件鞄を携帯していたが、本件鞄は堅牢で相当の大きさがあり、かつ荷物を詰め込んでいて重量も相当程度あつたのであるから、鞄を通路上または座席上に置くか、あるいは網棚の上に乗せる場合には、車両の振動等を考慮し、鞄が落下しないように配慮すべき注意義務があるのにこれを怠り、落下防止のための配慮を全くしないまま、漫然、本件鞄を網棚の上に乗せて放置し、その場を立去つた過失があり、これにより本件事故を発生させたもので、被告菅田らの行為は不法行為に該る。

また、本件鞄を網棚に乗せたのが被告菅田清孝であつたとしても、被告菅田真由美も、被告菅田清孝と共に新婚旅行に赴く同伴者であつて、被告菅田清孝と絶えず行動を共にし、本件鞄にも被告菅田真由美の使用する物が多く含まれていて両名共通の荷物であつたとみられること等からして、その荷物の管理について共同責任を負うものである。

3  被告日本国有鉄道の責任

(一) 安全運送義務違反

(1) 被告日本国有鉄道(以下「被告国鉄」という。)は、日本国有鉄道法にもとづき鉄道事業を営んでいるものであるが、同被告は、旅客との間の旅客運送契約により、旅客を安全に目的地まで運送すべき債務(以下「安全輸送債務」という。)を負つている。この債務は、走行中の車両内においては、主として車掌が車両内を絶えず巡回し、車両内で旅客に危険が及ぶことを未然に防止することにより履行されるべきものである。

(2) これを本件についてみると、本件鞄は、もともと網棚からはみ出して乗客に危険感を抱かせるような状態で乗せられており、当初から列車の振動で落下する程に危険な乗せ方がされていたか、あるいは、本件鞄が網棚に乗せられてから落下するまでの約一時間とみられる時間の間に、列車の振動により徐々に落下し易い状態となつていつたかのいずれかであるところ、いずれの場合でも、車掌が絶えず車両内を巡回して網棚の荷物の状態を監視しておれば、本件鞄が落下して他の旅客に危険を及ぼすべきことが容易に予測しえたのであるから、本件鞄の所持者を呼んで鞄が落下しないような処置を講ずるよう注意を喚起するか、あるいは、その状態のいかんによつては、本件鞄を座席に下す等して事故を未然に防止すべき責務があつた。

(3) しかるに、本件列車の車掌は右責務を怠り、その結果、本件鞄が落下して原告に傷害を負わせるに至つたものである。

(4) なお、近時、旅行用手荷物が大型化し、特に雷鳥号には現実に多数の旅客により日常的に大型手荷物が持ち込まれているのであるから、これに対応する車両構造上の改善が施されて然るべきであり、直ちにそのような改善が行われ難いものであるならば、車両内の安全を管理すべき車掌に対し、重い安全監視義務を課し、それによつて車両構造の不備による安全対策の不十分さを補わさせるのが衡平の理念にかなうものである。

また、本件鞄が網棚からはみ出していたことは容易にわかること、武生駅出発後、少なくとも検札二回と巡視一回が行われており、かつ、本件車両はグリーン車であつて通路内に旅客がいることはなく、検札、巡視は極めて容易であつて、車掌が荷物の状態を容易に監視できる状況にあつたこと、安全が旅客の最も基本的な要求であること等の事情と、原告が本件事故当時、仮眠状態で、荷物の落下に対して全く無防備であつたことをあわせ考えれば、公共輸送機関には極めて重い注意義務を課すべきである。

(二) 営造物責任

(1) 被告国鉄は、国家賠償法二条一項の責任主体であり、列車は、同被告の営造物である。

(2) ところで、近時、国内、国外を問わず長距離旅行が日常化し、それに伴い旅行用手荷物が大型化していることは顕著な事実であつて、旅客輸送機関も、これに対処する種々の手段を講じている。例えば、バスにおいては、胴体部分に収納部分を設けたり、車内に荷物を置く専用部分を設けて、大型荷物はその部分に限定して置くものとし、あるいは、網棚の構造を荷物が落下しないようにし、更には、ゴムバンドを張りめぐらす等して、網棚からの落下事故を防止する配慮をしており、バスのみならず、被告国鉄以外の私有鉄道の車両の網棚構造においても、被告国鉄の最新の新幹線車両の網棚構造においても同様の配慮がなされている。

(3) 特に、雷鳥号は、富山、石川、福井各県の住民が、京都、大阪、さらには、大阪空港から国内、国外へ旅行する場合に、最も多く利用する交通機関の一つであり、従つて、雷鳥号には、旅行用手荷物の大型化に対応する車両構造上の改善が施されて然るべきである。

(4) しかるに、被告国鉄は、本件車両の網棚に、右のように状況に対応した荷物落下防止の措置を講じていなかつたものであつて、これは網棚の通常有すべき安全性を欠いたものというべく、その設置または管理に瑕疵がある。

4  損害

(一) 本件事故による受傷により、原告は、昭和五八年三月二八日から同年四月一〇日まで大津市民病院に入院し、退院後今日に至るまで同病院に通院しているが、全快の目途は未だに全く立たない状況にある。

(二) 休業損害

(1) 原告は、昭和三九年四月から肩書住所地において歯科医を営んでいたが、事故の翌日である昭和五八年三月二二日から同年七月末日まで、これを休業せざるを得なかつた。この間、原告は、一切の収入の途を断たれた。

(2) その後、原告は、休業を続けていては生活不安が増すばかりであり、また、患者の期待に応える必要もあるところから、傷害による痛みをこらえて、昭和五八年八月一日から午前中のみ診療を始め、昭和五九年三月一日からは、身体の不調にもかかわらず、午後三時から六時までの診療もあわせ行うことにして現在に至つている。診療に際しては、高速度回転の治療器械を用いる必要がある等の事情から、体力及び精神の集中力を要するところ、本件事故による受傷によつて、これらが極度に減退し、とりわけ、歯科医の治療行為は、右手、右足を主として行わねばならないが、本件事故により、右手足のしびれ、脱力感等が強く、診療を休むか、短縮せざるをえない状況にある。

(3) 右の事情により、原告の収入は激減した。原告の昭和五六年ないし同六〇年の収支の状況は、別表1のとおりである。そして、事故前の昭和五六年及び同五七年の平均収入額をもつて、昭和五八年ないし同六〇年の得べかりし収入とみなして計算すると、本件事故による収入の減少は、別表2のとおり合計三、三三三万六、六二三円となる。本件事故前の原告の健康、稼働状態等に照らすと、右減収分は、すべて本件事故による稼働能力の減退によるものである。

(三) 慰謝料

(1) 原告は、本件事故により、前記のように入通院を要する傷害を負い、歯科医の生命ともいうべき右手足の回復に不安を残しており、その将来に大きな不安を抱くことを余儀なくされている。また、妻と三人の子供、更には父母の生活の面倒をみてきたが、今後それを全うできるかどうかにつき大きな不安を抱かざるをえない状況にある。このように、原告は、本件事故により、自己及びその家族の生活の将来につき、多大の不安を抱いており、その不安と焦燥感によつて大きな精神的苦痛を蒙つている。

(2) 右諸事情からすれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は五〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告は、本訴提起にあたつて弁護士を依頼し、着手金及び報酬として三七〇万円を支払う旨約した。

(五) 以上により、原告が本件事故によつて蒙つた損害は、四、二〇三万六、六二三円となる。

よつて、原告は、被告菅田らに対しては不法行為にもとづき、被告国鉄に対しては債務不履行または営造物責任にもとづき、それぞれ金四、二〇三万六、六二三円の損害賠償金及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年三月二一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否(被告菅田ら)

1  請求原因1(一)の事実は不知。同(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、被告菅田清孝が、乗車後すぐに本件鞄を網棚に乗せて被告菅田真由美と食堂車に行つたことは認めるが、本件鞄を乗せた位置が原告の頭上であつた事実は否認し、その余の事実は不知。同(四)の事実は不知。

2  請求原因2の事実はすべて否認し、被告菅田らに責任があることは争う。

3  請求原因4の事実は不知。

三  請求原因に対する認否(被告国鉄)

1  請求原因1(一)の事実のうち、昭和五八年三月二一日に雷鳥五四号が運転されていたこと、及び、その四号車がグリーン車であつたことは認めるが、その余の事実は不知。同(二)ないし(四)の事実は不知。

2  請求原因3の事実のうち、被告国鉄が日本国有鉄道法にもとづいて鉄道事業を営んでいることは認める。また、一般的に旅客との間の運送契約により旅客を目的地まで運送すべき債務を負つていることは認めるが、その具体的内容、特に車掌の一般的責務の点を争う。車掌に網棚の荷物が落下するか否かの監視義務はない。本件鞄が落下する危険があつたことは否認する。被告国鉄に責任があるとの主張は争う。

3  請求原因4の事実は否認する。特に本件事故について車掌等に対して何らの申出もなされていないこと、及び本件鞄の落下による衝撃はさほど大きくないことからすれば、原告の傷害は比較的軽微であつたと推測されるから、本件事故と原告の傷害との因果関係を争う。

四  被告菅田らの主張

1  被告菅田らは、昭和五八年三月二一日、結婚披露宴をすませ、同日午後五時四六分武生駅発の本件列車の四号車に乗車した。その時携行していた本件鞄は、大きさが、縦六七センチメートル、横五一センチメートル、厚さ二四センチメートルで、鞄の中には、被告菅田清孝が着用するスーツ等の衣類、洗面道具等が入れられていて、その総重量は約八キログラムであつた。

2  被告菅田清孝は、乗車した際に、本件鞄を座席の足元に置いてみたが、他人の通行の妨げになるので、すぐ網棚に乗せた。その位置は、別紙図面1のとおりである。被告菅田清孝は、本件鞄を網棚に乗せるにあたつて、本件鞄の長辺にある持ち手を手前にして、長辺を網棚の上に平行させて奥の方に押し込み、容易に落下しないための注意として、三回程ゆすつてすべり落ちないよう鞄の位置を確認したものである。

3  その時、本件鞄は、網棚から鞄の短辺の四分の一程度はみ出す形であつたが、網棚は、通路側が高く傾斜して、網棚に乗せた荷物が容易にすべり落ちないようになつているので、他から力を加えない限り、自然に落下することはない。

4  本件鞄が落下する場合には、真下に落下するはずであるから、前記のような、被告菅田清孝が本件鞄を乗せた位置からすると、本件鞄は、原告の頭上に落下することはなく、本件鞄は、第三者によつて進行方向に向つて前方に移動させられたものである。従つて、被告菅田らの行為と本件鞄の落下との間に因果関係はない。

5  被告菅田清孝は、前記のように、本件鞄の落下防止について必要な注意を払つていた。また、本件鞄は、通常の旅行用鞄として市販されているものであつて、規格外の鞄を持ちこんだものではなく、被告菅田清孝が本件鞄を網棚に乗せたことについて注意義務を怠つたものではない。

五  被告国鉄の主張

1  本件列車は、四八五系電車の一二両編成であつて、北陸線、湖西線で最も多く運転されている電車型特急列車と同様の列車であり、当日、富山駅から大阪駅まで定時に運転された。本件列車の敦賀駅、京都駅間におけるグリーン車の乗車率は、九〇パーセント(定員九六名に対し乗車人員八六名)であつた。

2  本件列車の網棚は、金属製パイプが並列にほぼ等間隔に配列され、網棚全体の幅は約三五センチメートルで、通路側が約四センチメートル高くなつていて、乗客らの手回り品が落下しないよう配慮されており、荷物をできる限り棚からはみ出さないよう正常な状態で積載すれば、列車の通常の運行状況下では荷物は落下せず、落下によつて受ける旅客の危害は防止される。

3  本件列車の受持車掌区は、金沢鉄道管理局富山車掌区であり、本件列車には、列車長としての車掌長が五号車車掌室に、運転担当車掌としての車掌長が列車最後部の運転室に、特別改札担当車掌としての専務車掌が列車長と共に五号車車掌室に、それぞれ乗務していた。これら三名の車掌の間では、乗客に対する接遇、案内、車内巡視、車内改札等の業務を車両別に分担し、本件車両は列車長の受持ちであつた。

4  予見可能性について

網棚上の荷物は、通常、できる限り深く収納されるものであるが、積載方法が悪い等の理由で自然法則的原理から落下することのあり得ることは肯定せざるを得ないが、

(一) 列車輸送における現実の問題として、被告国鉄においては、これまで、荷物の落下を原因とする人身事故は本件以外皆無であり、他に落下を原因とするトラブルも一切存していないこと、

(二) また、本件鞄が、網棚の原告主張位置に置かれていた場合、一見不安定のようにみえるが、実際には落下の危険はなかつたこと、

(三) 前記のように、本件車両の網棚の構造は、通常の注意をもつて荷物を積載した場合、荷物が容易に落下しない構造となつていること、

からして、本件鞄の落下は予見し難い状況にあつた。

5  車掌の旅客の手荷物に対する監視義務について

(一) 被告国鉄は、旅客運送人として、旅客を安全に運送する責任を有するが、旅客もまた、鉄道を利用する以上、運送中の危害防止のため、通常可能の範囲内において安全輸送に協力する義務がある。

(二) ところで、旅客が車内に持込む荷物は、荷主たる旅客が保管し、これを網棚に積載するときは、荷物が棚からできる限りはみ出さないよう正常な状態で積載する義務があるというべきであつて、これは、旅客が交通機関を利用する場合には当然付随する義務である。また、これは通常何人も容易に遂行しうる程度の簡易なものであつて、これを荷主に期待することは、公平の点からも適当であり、荷主に無理を強いるものではない。従つて、一般的に、旅客が車内に持込む荷物を安全な状態で保管することについては、旅客自身に保管責任がある。

(三) 車掌の職務については、「営業関係職員の職制及び服務の基準」(昭和三七年八月一七日総裁達第三六三号)によつて、車掌長の職務は「車内業務に関する計画及び指示調整並びに業務指導。専務車掌の職務」とされ、専務車掌の職務は「旅客の接遇、総合案内、座席の調整及び運用並びに車内用の乗車券類の販売。列車内の秩序維持及び環境の保持並びに列車食堂営業等の指導。荷物輸送業務の処理。列車の運転に関する業務」と定められている。また、富山車掌区では、これらの職務について内規を定めているところ、旅客の安全輸送、車掌の車内巡視に関して定める営業内規には、「車掌は車内秩序の維持、犯罪の防止及び車内衛生の保持に留意し、旅客の安全輸送に努めなければならない。」との定めがあり、車内巡視回数、座席の整理及び車内秩序の維持について定めが置かれているが、網棚上の荷物の監視についての定めはない。

(四) また、被告国鉄においての網棚の荷物の落下による事故がないこと、本件鞄について落下の危険がなかつたこと、本件車両の網棚が荷物が容易に落下しない構造であることは前記のとおりである。

(五) 以上のような実情、特に、荷物は荷主たる旅客が落下しないように積載していることが通常十分に期待しうること、及び、これまで落下により旅客が危害を受けたことがないことからすると、通常の状況において、車掌が荷物の落下防止のため絶えず車内を巡視し、その状態を監視する義務はないというべきであるし、仮にこれがあるとしても、検札や巡視の際に落下の危険を予見しえた場合に限り、その防止措置をとることをもつて十分というべきである。

(六) 被告国鉄では、安全輸送等のため、車掌をして車内巡視をなさしめているが、前記営業内規によれば、その標準は、(1)始発駅発後又は交代後一回、(2)主要駅間において一回、(3)中間駅は三ないし四駅間で一回、(4)その他乗降客多数又は接続駅の前後に一回となつており、前記の監視義務の程度としては右の標準程度で十分であつて、被告国鉄の車掌はその義務を尽していた。

(七) 原告は、旅行用荷物の大型化に対応して、車掌の監視義務を強化すべきであると主張するが、荷物の大型化による事故防止も、公平上、荷主の注意義務によつてなされるべきことであり、現実に荷物の落下による事故がないこと、車掌の定員及び業務の量等からしても、車掌に重い監視義務を課すべきであるとの主張は失当である。

6  国家賠償法による責任について

(一) 前記のように、本件車両の網棚は、通路側が高く、窓側が低くなつていて荷物が落下しにくい構造であり、かつ、被告国鉄では網棚から荷物が落下したことによる人身事故は皆無であること等からすれば、本件車両の網棚の設置または管理に瑕疵はない。

(二) 原告は、バスや新幹線車両の例を挙げるが、バスは列車と比較して運転中に相当激しい揺れがあることは明らかであつて、バスの落下防止設備をもつて本件車両の網棚の設置または管理に瑕疵があるとすることは論理の飛躍であり、また、新幹線車両等の網棚構造も本件車両と基本的に同一である。

六  被告らの主張に対する認否、反論

1  被告菅田らの主張のうち、本件鞄を乗せた位置が別紙図面1のとおりであること、及び、本件鞄が第三者によつて移動させられたことはいずれも否認する。

2  被告国鉄は、旅客には手荷物を正常な状態で積載する義務があると主張するが、原告は、被告国鉄が原告との運送契約にもとづいて原告に対して負つている債務の不履行を主張しているのであつて、仮に右義務が、被告菅田らが被告国鉄との間の運送契約により被告国鉄に対して負つている債務として、あるいは、被告菅田らが他の旅客との関係において一般不法行為法上負つている注意義務として肯定されたとしても、原告と被告国鉄の間の債務には何ら影響しない。

また、被告国鉄の主張する営業内規は、あくまでも被告国鉄の内部の職務分担、内容を定めたものであり、これを旅客に直接主張し、旅客に対する関係で一切の責を免れるというものではない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(事故の発生)について

1  被告菅田らが昭和五八年三月二一日、武生駅から本件車両に乗車して京都駅に向つた事実、及び、被告菅田清孝が、乗車後間もなく本件鞄を網棚に乗せて、被告菅田真由美と共にその場を立去つた事実は、原告と被告菅田らの間で争いがなく、右同日、本件列車が運転されていた事実、及び、本件車両がグリーン車である事実は、原告と被告国鉄の間で争いがない。

2  右各事実並びに、〈証拠〉によれば、以下の各事実を認めることができる。

(一)  原告は、家族と共に、能登方面への二泊三日の家族旅行を終えて、昭和五八年三月二一日午後四時三六分金沢駅発の本件列車の四号車に乗車し、一番B席(列車の進行方向最前列の左の通路側の席)に座つた。

(二)  被告菅田らは、同日、結婚披露宴を終えて、武生駅から本件列車に乗車した。同被告らの座席は、二番A席及びB席(前同二列目の左の窓側及び通路側の席)であつた。同被告らの荷物は、ボストンバッグ一個と本件鞄であつたが、乗車当初は、ボストンバッグを網棚に乗せ、本件鞄を通路に置いて着席したが、本件鞄が車内販売のワゴン車の邪魔になつたので、被告菅田清孝がこれを進行方向前方の網棚(およそ別紙図面2に示した位置)に乗せて、右両名ともその場を立去つた。

(三)  その後、本件列車が湖西線に入つてしばらくしたころ、本件鞄が落下して、二段式リクライニングシートを一段目まで倒して仮眠中の原告の頭部に当り、原告に頭部外傷I型、外傷性頸部症候群、外傷性椎間板症の傷害を与えた。

3  被告菅田らは、「進行方向前方の網棚にはボストンバッグを乗せており、本件鞄はその後方の網棚に乗せたから、本件鞄が落下して原告に当つたのであれば、何者かが本件鞄を原告の頭上まで移動させた可能性がある」旨主張するが、このうち、「何者かが本件鞄を移動させた」との点は、主張自体不自然、不合理であり、これを認めるに足る的確な証拠もないから採用できないし、被告菅田ら各本人尋問の結果中の「本件鞄はボストンバッグの後方の網棚に乗せた」との部分も、証人佐々木敦、同岡田裕義の各証言及び原告本人尋問の結果に照らして信用できない。

二請求原因2(被告菅田らの責任)について

1  一般に、旅客が列車等の交通機関に手回り品を持込む場合には、それが網棚から落下する等して他の旅客に危険を及ぼさないように安全な方法で保管すべき注意義務があるといわなければならない。

2  ところで、〈証拠〉によると、以下の各事実を認めることができる。

(一)  本件鞄は、縦約七〇センチメートル、横約四九センチメートル、厚さ約二八センチメートル(いずれも最大寸法で、把手、車輪を含まない)のおおむね直方体をしており、各面とも中央に向つて緩やかにふくらんでいて、多少弾力のある固い物質で作られている。

(二)  本件鞄に衣類等を入れた時の重量は約一〇キログラムである。

(三)  本件車両の網棚は、金属性で、別紙図面3のとおりの構造である。

(四)  本件鞄を、本件車両の網棚の二番の座席上、一番の座席に近い位置に窓側壁面に接着して乗せた場合、本件鞄は網棚の端から約二〇センチメートル(本件鞄の横寸法の約四割)はみ出すほか、本件鞄の一部が荷棚受にかかるため、網棚の傾きより水平に近い状態となるものの、がたついたりすることなく一応安定している。

(五)  列車の進行中、特に湖西線では振動が激しいが、本件鞄は、列車がカーブを通過する時の遠心力あるいは列車の振動によつて、一ないし二センチメートル緩やかに網棚からはみ出し、また緩やかに戻るという運動をする。

なお、原告は右検証に本件鞄として用いられた鞄と本件鞄の同一性を争うが、〈証拠〉によれば、右の鞄は同一物であると認められ、〈証拠〉中、これに反する部分は信用できない。

3  右各事実により検討するに、本件鞄が網棚の端から約二〇センチメートルはみ出している状態は、本件鞄の中心点に重心があると仮定しても、その重心が網棚の端からわずか五センチメートル程度のところにある状態であること、本件鞄の重心の位置は、荷物のつめ方等によつて変動するものと考えられること、列車の走行中に本件鞄が網棚からわずかではあるがはみ出す現象があること等からすれば、本件鞄を前示一2(二)の位置に乗せると客観的に落下の危険があつたと認めることができる。また、検証の結果によれば、本件鞄を網棚に乗せた状態は、一般的に危険感を抱かせるものと認められること、及び、前示の本件鞄の大きさ、形状、重量、原告との位置関係等からすれば、本件鞄の落下の危険性及び落下した場合に人に危害を与えることは予見可能であるというべきである。

4 以上の各事実、及び、被告菅田清孝において本件鞄を網棚に乗せることがやむを得なかつたと認めうる事情もないこと(検証の結果によれば、本件鞄を座席と座席の間に置いても十分着席できることが認められる。)からすれば、被告菅田清孝には、前示1の注意義務に反して、漫然、本件鞄を網棚に乗せた過失があるといわなければならない。

5  原告は、被告菅田真由美の責任原因として、同被告が被告菅田清孝と行動を共にしていたこと、及び、本件鞄が被告菅田らに共通の荷物であることを主張するが、右が仮に事実であつたとしても、それ自体が単独で不法行為を構成しないのは無論のこと、これが前示の被告菅田清孝が本件鞄を網棚に乗せた行為に何ら加功あるいは寄与するものともいえないから、右は主張自体失当である。たしかに、〈証拠〉によれば、被告菅田清孝が本件鞄を網棚に乗せる際、被告菅田真由美は座席に坐つてこれを見ていた事実を認めることができるが、それ以上に、例えば、被告菅田清孝に対し指示する等の事実のない限り、右もまた不法行為を構成するものとはいえず、他に被告菅田真由美について不法行為の成立を認めるに足る証拠はない。

三請求原因3(被告国鉄の責任)について

1  債務不履行の主張について

(一)  被告国鉄が鉄道事業を営んでいること、及び、同被告が旅客との間の運送契約により、旅客を目的地まで運送すべき債務を負つていることは、原告と同被告の間で争いがない

(二)  そこで、右債務の内容として、列車の車掌が旅客の手回り品を監視して、その落下等による旅客の事故を防止する義務があるか否かについて以下検討する。

(1) 前示(一)の運送契約において、運送の安全が被告国鉄の債務の内容をなしていることは当然であること

(2) 被告国鉄の列車内では、通常は車掌がもつぱら旅客と接していることは公知の事実であり、従つて、列車内における右債務の履行は車掌によりなされるものというべきこと

(3) 〈証拠〉によると、被告国鉄の内部規定において、車掌の職務として、車内秩序の維持、車内巡視等を規定し、特に旅客の手回り品との関係では、座席等の荷物を網棚等に収納させることや旅客に盗難防止のための注意を与えること(富山車掌区営業内規一〇条(3)、一二条(2))が規定されていること

(4) 鉄道運輸規程及び旅客営業規則によれば、旅客の手回り品について、危険品等の車内持込みを禁止し、荷物の点検、違反の場合の退去等の措置が定められているところ、これらの規定は、一面で、車掌の職務を定めたものというべきこと

等の各事実を認めることができる。しかしながら他方、

(イ) 鉄道運輸規程、旅客営業規則等、被告国鉄と旅客の間の運送契約の内容をなす諸法規の他、〈証拠〉により認められる被告国鉄の諸内部規定によつても、原告主張のような車掌の注意義務を直接根拠づける規定はないこと

(ロ) 鉄道運輸規程二三条二項は、車内に持込んだ手回り品については旅客自身が保管の責任がある旨規定し、また同二一条四号は旅客に対して他人に危害を及ぼす行為を禁止しているが、その違反について特段の措置を規定していないことに照らし、また、列車の利用が不特定多数の旅客の任意によるものであることからして、列車内での旅客相互の秩序の維持は、いわゆる特別権力関係とは異なり、もつぱら旅客自身のモラルに委ねられているものというべきことに鑑みれば、被告国鉄の職員の車内秩序維持の職責は、補完的なものと考えられること

(ハ) 前示(1)の運送の安全については、鉄道営業法その他の関係法規の趣旨からして、もつぱら鉄道事故の防止、列車運行上の安全をいうものと解すべきであつて、本件のような旅客相互間の事故までをも含むものとは必ずしもいえないこと

(ニ) 前示(3)、(4)の車掌の職務に関する規定は、直接には、座席の確保や盗難防止を目的としたものであると解されるところ、前示(ロ)の点に鑑みれば、これらの規定を根拠に車掌の旅客に対する職務を拡大して解釈することは必ずしも相当とはいえないこと

(ホ) 〈証拠〉によると、車掌の職務は、車内巡視の他、旅客の接遇、案内等多岐にわたつていること

等の諸事実をも認めうるところであつて、これらの事実を総合して考えれば、車掌に対し、運送契約上の債務として原告主張のような義務を負わせることは相当ではないというべきである。

(三)  原告は、旅客の手回り品の大型化に伴つて車掌の監視義務を強化すべきこと、及び車掌の監視義務の履行の容易性を指摘するが、

(1) たしかに、近年、海外旅行等の増加に伴つて、列車内に大型の手回り品が持込まれる例のあることは公知の事実ということができるが、他方、前示の諸事情に加えて、証人木村光正の証言によれば、同証人は、約二〇年間の車掌経験の間に、網棚の荷物の落下による事故を経験していないことが認められ、従つて、本件のような事故はごく少ないものと推認されることからして、手回り品の大型化が直ちに車掌の監視義務を生じさせるものとはいえないと思料されること

(2) 後者の点についても、前示のとおり、原告主張のような車掌の監視義務自体、根拠に乏しいものであることに照らし、原告のいう履行の容易性が直ちに右義務の根拠たりうるものとはいえないこと

からして、いずれも前示の判断を覆えすものではない。

(四)  よつて、原告の被告国鉄に対する債務不履行の主張は理由がない。

2  営造物責任について

(一)  被告国鉄は、行政法学上の営造物法人として、国家賠償法に定める「公共団体」に該るものというべく、従つて、同被告の所有、管理する営造物のうち、少なくとも、同被告の本来の事業である鉄道事業に供される営造物の関係では、国家賠償法二条の適用があるものと解するのが相当である。

(二)  前示1(二)(ロ)のとおり、旅客が車内に持込んだ手回り品の保管責任は旅客自身にあることからすれば、網棚等の手回り品の保管施設を設けることは、被告国鉄の旅客に対する便益の供与であつて、運送契約上の債務の本来的内容ではないというべきである。従つて、網棚等の施設は、通常一般の旅客の利用を前提に、その手回り品を安全に保管しうる程度の安全性を有していれば足り、あらゆる手回り品についてまでも、これを安全に保管しうるまでの安全性を要求されるものではないといわなければならない。

(三)  〈証拠〉によれば、本件車両の網棚は、別紙図面3のとおり、幅約三五センチメートルで、通路側が窓側よりやや高くなつた構造で、荷物の落下を防止しうる構造であること、及び、金属製で堅牢であることを認めることができるほか、〈証拠〉によつて認められる他の旅客の手回り品の保管状況をもあわせ考えれば、本件車両の網棚は、前示(二)の程度の安全性を十分に有していたというべきである。

(四) たしかに、原告の主張する大型の手回り品の増加、及び本件車両の網棚が本件鞄に対して十分な安全性がなかつたことは、前示二1(三)及び一3のとおり、いずれも事実である。しかし、前示一4のとおり、本件鞄のような荷物であつても、床上に安全に保管する余地があり、必ずしも網棚を利用する必要がなかつたことからすれば、右が前示の判断を覆えすものとはいえない。

(五)  また、原告は、バスや新幹線車両の例を挙げるが、これらについては何らの立証もない。

(六)  よつて、原告の営造物責任の主張も理由がない。

四請求原因4(損害)について

1  〈証拠〉によれば、以下の各事実を認めることができる。

(一)  原告は、本件事故の翌日の昭和五八年三月二二日の朝、肩のだるさ、頸部痛、右足のしびれ感があつて、大津市民病院で受診し、その後、安静にしていたが、同月二六日ごろから、右手のしびれ、右顔面のはれを感じ、右の脱力も同時に生じたため、右病院に入院して精密検査を受けた。その結果、ミエログラフィ及びCTでは特に大きな異常がみられなかつたが、頸部の椎間板症を疑わせる軽度のずれを認め、バレーリオー症候群と考えられた。そこで、頸部牽引、軟質コルセットの治療を受け、症状が軽快したので、同年四月一〇日に退院した。しかし、その後も体のしびれや脱力感、肩や頭に対する圧迫感、右手のうずき等が残つた。

(二)  原告は、歯科医を営んでいる者であり、本件事故前は週五日間、午前午後各三時間(九時から一二時、一四時から一七時)を診療時間としていたが、本件事故による傷害のため、昭和五八年七月末まで休業し、同年八月一日から午前のみ診療を再開し、昭和五九年三月一日からは、午後三時から六時の診療も行うようになつた。しかし、以前に比べて患者数が減少したほか、現在なお、手足のしびれや脱力感、診療に必要な体力や集中力の減退が残り、脈拍異常や発汗等の自律神経の異常もみられる状態にある。

なお、被告らは、本件事故と原告の傷害の因果関係を争うので、これについて検討するに、〈証拠〉によれば、本件鞄は堅牢な材質でできていて、約一〇キログラムの重さであること、これが網棚から少なくとも六〇センチメートル落下して、原告の頭部に直接当つたこと、従つて、その際、原告の頭部、頸部に相当程度の衝撃を与えたと推認されること、原告の症状は本件事故当日から生じ、その後、軽重はあるものの継続してみられること、原告は、本件事故当日から少なくとも大津市民病院退院までは安静療養しており、他に原告の症状を増悪させたと疑わしめる事情がないこと、の各事実を認めることができ、これらの事実からすれば、本件事故と原告の傷害及びその後遺症との間の因果関係を認めることができる。

2  次に、本件事故による原告の収入の減少について検討する。

(一)  〈証拠〉によれば、右各文書により算出される、原告の昭和五六年ないし昭和六〇年の総収入、必要経費、純収入、昭和五六年と昭和五七年の純収入の平均額、これを基準とした昭和五八年ないし昭和六〇年の原告の収入の減少分は、それぞれ別表1及び2のとおりとなる。

(二)  そこで、右計算の正確性について考えるに〈証拠〉によれば、右各文書は、窓口の帳簿、社会保険診療報酬支払基金からの診療報酬の銀行振込みの通知書、家計簿をもとにして作成されたものと認められ、一応根拠のあるものというべきこと、税理士が原告またはその妻から渡された資料にもとづいて作成した原告の昭和五六年ないし昭和六〇年の確定申告書であると認められる甲第一七ないし第二一号証における総収入金額と、右甲第一〇ないし第一四号証の総収入金額はほぼ照応していること等からすれば、右(一)の計算は一応正確なものというべきである。

(三)  よつて、本件事故による昭和五八年から昭和六〇年までの原告の歯科医としての事業収入の減少は、別表2のとおり、三、三三三万六、六二三円と認めることができる。

3  本件事故による慰謝料について検討するに、〈証拠〉によれば、原告は、本件事故の翌日から四か月余り休診し、その後七か月間は診療時間を短縮したこと、これに伴つて患者数が減少し、収入も減少したこと、現在も、手足のしびれ、体力等の減退、自律神経障害等の後遺症があり、投薬治療を受けていること、右後遺症のため、高速回転の機械の使用や抜歯等の歯科医の診療に差し支えがあること、原告の家族は、妻と中高生の三人の子供の他、老令の父母及び精神障害者の弟がおり、すべて原告が扶養していること、これらの事情のため、原告は、自己の歯科医としての将来及び家族の生活等について不安を抱いていること、の各事実が認められ、これに照らせば、本件事故により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、三〇〇万円が相当というべきである。

4  原告が本件訴訟の提起を弁護士に委任した事実は当裁判所に顕著であるが、着手金及び報酬として三七〇万円の支払いを約した事実は、これを認めるに足る証拠がない。しかしながら、本件事案の性質等からすれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は二〇〇万円が相当というべきである。

5  他方、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故に伴う休業による収入の減少の補償として、自己の加入する保険契約にもとづいて、保険会社から六〇〇万円の支払いを受けた事実が認められるところ、これは損益相殺により、損害額から控除されなければならない。

6  以上によれば、本件事故による原告の損害は、三、二三三万六、六二三円となる。

五よつて、原告の請求は、被告菅田清孝に対して、不法行為にもとづき、金三、二三三万六、六二三円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五八年三月二一日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及びその余の被告に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西池季彦 裁判官新井慶有 裁判官松本清隆)

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